このままがいいね in ココ吉

 初めて訪れた吉祥寺で痛感した。自分はピラミッドの下の方にいる人間なのだと。その日はとても寒くて一人凍えていた。すれ違う人たちは皆んな嫌味のないお洒落な装いで、下町の地味男が紛れ込んだみたいで恥ずかしかった。インストアイベントのために来たけれど、少し早めに着いてしまったのでどこかでじっとすることにした。ベローチェを探し店内に入ると、ベローチェ史上最高の美女が一人で店を回している。唯一入れる安いカフェにまで土地柄というのが侵食していたのだ。先程すれ違った人たちがコーヒーを飲みながら喋ったり本を読んでいる。この街に自分の居場所がないことを自覚して溜息を吐き、店内にいる唯一自分に似た冴えない男を見てかろうじて息を吸った。
 そろそろ行こうかと店を出てココナッツディスクへ向かった。店に着くと、そこにはたくさんの人たちでいっぱいだった。15分前には着いていたと思うが、入り口のドアを入ったところで店内には入れなかった。ちょうど壁が邪魔になって何も見えない最悪の位置。下を向くとスカートのジャケットの原画のようなものが飾ってあった。始まる直前に隣の男性が少し強引に奥の方へ向かったのでその流れで自分も最後列に行った。店内は思っていたよりもこじんまりとしているという印象を受けた。雰囲気がとてもいい。なぜか優しさを感じた。
 時刻は21時。メンバーが出て来て「あけましておめでとうございます」という挨拶から始まった。この時に初めて「ああ、もう2018年なんだ、今年って2018年なんだよな」と新年に入ったことを認識した。カウントダウンもしない、初詣にも行かない、おみくじも引かない、ただただベッドに寝転がっているだけだった僕は10日目にして「あけましておめでとうございます」という言葉を聞いた。夏目くんは、もう10日経ったということを「あと35回くらいしか10日を過ごせないんだよ、寂しくない?」と言っていた。積み重ねてはいけない10間を過ごしていたことを恥じた。まずは、新年だということで書き初めから始まった。和やかなムードで楽しい空気だった。
 演奏が始まった。近いとはいえ一番後ろだった上に、ステージがあるわけでもなく、高くなっているわけでもないので、演奏している様子の全てが見えるわけではなかった。しかし、そんなことはどうでもいいと思った。なぜなら、最高の演奏だったからだ。マイクを通さず歌い上げる夏目くんの歌声は優しく心にしみる。店内に入りきらずにガラス越しにライブを見つめている方たちもいて、こんなに人が集まる理由がそのとき何となくわかった気がした。それはシャムキャッツはもちろん、ココナッツディスク吉祥寺がとても愛されている場所だということ。ここには、色々な人たちの「愛」があり、何よりも「大好き」が集まっている。このこじんまりとした空間に「大好き」を持ち寄った人たちが音楽に耳を傾け、ミュージシャンが演奏する。同じ目線で演奏していることによって、バンドとの距離がとても近く感じた。『このままがいいね』でお客さんがマラカスを振り、夏目くんが被り物を被って演奏する光景が今日ならではで、とてもよかった。
 今日初めてココ吉を訪れたのだが、また行きたい。音楽が好きな友達ができたら、音楽の知らない僕に色々教えて欲しい。あーだこーだ言いながらレコードを眺めたい。この場所で。
 何ヶ月後かには『このままがいいね』の7inchが出る、春には『Friends Again』のレコードが出る、そして大きいライブが始まる、リリースもバンバンある、いい知らせがある。楽しみがいっぱいだ。
 
〜セットリスト〜
Travel Agency
Four O’clock Flower
このままがいいね